斉藤 賢爾

僕は音楽より先に世界を変えないといけない

【早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授】現在、早稲田大学で教授をやられている斉藤さん(本人が先生と呼ぶなというので)ですが、大学時代に「インド哲学」を学びその後「日立ソフト(現:日立ソリューションズ)」に就職。「日立ソフト」に勤めている時に、アメリカのコーネル大学に留学。紆余曲折あり、慶応大学で博士号を取り講師になり今は早稲田大学にいらっしゃるというかなり変わった経歴をお持ちの方。
様々な世界を見ており、現在切り開いている斉藤さんはどのような価値観を持っているのだろうか。
今回は、経歴と教育革命などについて聞いてみた。 (2020.10)

インド哲学と素粒子物理学の共通点って?

高校生の時に理系のコースに入っていたんですよ。なので、元々考え方も理系なんです。けど、所謂文系的な興味が結構あるんです。ふとしたきっかけでインド系の、特に仏教が、当時興味があった「素粒子物理学」の考え方に似てるって気づくんですよ。そこから、仏教とかインド哲学とかってもしかしたら凄いもんなんじゃないかって思って、インド哲学について大学で学ぶようになりました。

仏教は認知科学みたいなものを紀元前500年ごろからチャレンジしていたものであり、「量子力学」みたいな世界も人間が直接認識できないものであるため、この2つの学問は、世界をどう認識するかのモデルが似てくると気づきました。

実はミーハー!?な社会人時代の留学

大学に入り、自分でコンピューターを買うようになって、もともと持っていたプログラミングなどの興味を満たせてきたため、そのまま日立ソフト(現:日立ソリューションズ)に入りました。そこから、社費で留学してよいと言われたため、コーネル大学に行きました。

大学時代は、フランス現代思想がその時流行ったので読んだりもしましたね。ジル・ドゥルーズ(*)とか。

ニューアカデミズムなんかも流行っていた。

留学したのは、もともと浪人時代に英会話学校の先生たちがいる寮で暮らしていてそういう生活が好きだったし、一度も外国に住んでいなかったのでやってみようかなと。コーネル大学選んだのもミーハーな理由で、カール・セーガン(*)がいたからなんですね。けど、実際はコーネル大学は当時アメリカのコンピューター科学の5本の指に入る大学でかなり勉強になりましたね。

実は音楽も好きで、日立にいるときに音楽を自分で作ったりもしました。ある時、「CD作らないか」という話が来て日立をやめたんですよ。今も音楽は続けているんですが、休止期間という形になっています。「世の中を変えるために研究」をしていたら、音楽やっている場合じゃないだろ!って思うんです。でも、音楽仲間は全国にたくさんいて。だから、「君たちは音楽やりな、僕が皆で楽しめる世界に変えるから。変わった後に一緒に音楽をやろう」って秘かに思って今は研究していますね。

(*)ジル・ドゥルーズ:20世紀のフランス現代哲学を代表する哲学者の一人。

(*)カール・セーガン:アメリカの天文学者、作家、SF作家。

アカデミーキャンプで教育革命実験?

3.11が発生した時に福島の子供たちが心配で、「子供たちに何かできないかな?」って思ったんです。そこで思いついたのは、以前早稲田塾との共同でやっていた合宿。「慶応大学の村井純研究室でやっているようなことをやりたい」と言われて始めていたものですが、そこでは、高校生相手にロボット作ったり、セグウェイに乗ったりする合宿を行っていました。

それから、慶応で出来た「震災復興連携センター」というオフィスで合宿のことについてずっと言っていたんです。すると、「プロジェクト結」という宮城の石巻で活動していた長尾彰さんという方が「やりましょう!」と言ってくれて、この合宿を「アカデミーキャンプ」とも名付けてくれました。さらに、長尾彰さんのツテでYMCAの人たちが来てくれてキャンプを作っていきました。今は大学でやっているようなことをしていますが、当初は大学の力というより「YMCA」や「プロジェクト結」の力が強く、ミニバイクやテコンドー、ボディペインティングなど、そこからいろいろ混ざったキャンプが始まっていきました。

「アカデミーキャンプ」の資金はほぼ全てクラウドファンディングから成り立っています。そのクラウドファンディングにはコツがあって、支援者一人一人(計1期600通ほど)に1通1通メールを送ることが大切になってきます。もの凄く疲れる作業なので、普通NPOは専門の人にやってもらうと思いますが、僕は自分でその人と自分に関わるエピソードなどを入れて1通1通送っています。そうすると、メールをもらった相手も「確実に自分に向かって支援を求めているんだな」と分かって30~40人に1人は寄付してくれます。

最近、「アカデミーキャンプ」は研究なんだなという気づきが出てきました。未来の社会を作るうえで主役は今の子供たちじゃないですか。ですが、不幸なことに今子供たちの受けている教育が今と明治、大正、昭和からあまり変わっていないのが現状です。「アカデミーキャンプ」は、そのような教育を変える実験として作っていたのかなと考えています。

ノーマネー革命!!

人類は、お金のない社会をやったことがあるんです。

お金のある世界は何千年かだし、円とか米ドルとかの中央銀行マネーを使った社会は400年くらいしかないんです。それに対して、お金のない社会ははるかに長くて安定していたんです。今SDGsなんて言われていますけど、それたっだらお金をなくした方がいいんじゃないかな。

特に、この資本主義の400年間の貨幣の仕組みは、お金によって欲望がドライブされていって「お金を増やさなきゃいけない」っていう呪いにかけられている状態なんです。そもそも、何でお金を増やさないといけないかというと、借金をしないとお金が入らないからなんです。その借金に利息が付くのでお金を増やして返さないといけない。この「呪い」に沿って動かないといけない状態は、サステイナブルではないんですよ。やめなきゃいけない。

国が国民を管理する手段がお金だとすると、お金はもともと支配のためにあったということ。役割を分断し一人では生きていけないようにして、お金がないと生きていけないような形になってしまいました。それは、お金のあるここ数千年間の人間の不幸な生き方だと思うんです。

これからは、デジタルテクノロジーを使ってコストを下げ、人間がやりたかったことをやるように出来るのではないかと思います。

一つの落とし穴としてお金がないと何もできないんだからお金を配ろうという案があります。けど、世の中の仕組みを変えないまま解決しようとしているから「あなたたち、本当に奴隷のままでいいの?」という感じになってきます。

本当にお金をどう無くしていくかというのを考えないといけないですよね。

メタネイチャーへの挑戦

今興味があるのは、孫正義さんの弟で実業家の孫泰蔵さんという方が名前を付けた「メタネイチャー」っていう概念です。人間にとって自然は、人間が関わっていないっていう意味では自動システムです。なので自然は、自動システムと人間との関わりという設計になっていくと思うのです。その自然の上にある自動システムが人間にとってはネイチャーだけど、メタなものであるから「メタネイチャー」と名付けられました。

以前から社会の分析を通して、狩猟採集の社会をデジタルテクノロジーを使って具現するのが 人間が人間らしく生きるための鍵だと思っていたんです。それを後押しする形で、メタネイチャーという考えが出てきたんです。あとは、メタネイチャーをどう作っていくか、そして人間がどうかかわっていくかに興味がありますね。

今の教育に「ふざけんな!」

30年以上前の教育をしているということで、今コロナ禍で大学が対面授業をなかなかできないことで「大学生が可哀そう!」などと言って叩かれていますけど、「ふざけんな!」って僕は思うんですよ。これはやっぱり今までの教育の失敗だと思うんです。

「大学生でしょお前ら!?何甘えてんの?」って大学生に思うんです。大学生なのに、自分で勝手にいろいろやればいいじゃん!何待ってるの?みたいな。システムの中に入って、システムが治るの「待つ」っていうことしているから、一人で勝手に落ち込んじゃっているんじゃないの?って思うんですよ。もちろん大学教員としての責任は棚に上げて言っています。

保育園児のように生きてみたらどうですか?

DeruQui に出ている大学生やそれに類する人たちが多いと思うんです。それって保育園児と同じような立場にいるはずなんです。

保育園児は自分が「出来るようになる」「新しく知る」というのが生活の中心で、それを周りの人がサポートしてくれる形ですが、大学も本来そのような場なんです。ゼミっていうからには、DeruQuiの「起想ゼミ」も同じようなものだと思うんです。

大学の授業は座って聞いているような場ではありません。大学の授業だけでなく、どこに行ってもそうするべきではないと思います。大学に行ってすら、「話聞いてるだけなのかよ!」って。もっと保育園児のように、自分ができるようになることをしっかり追求していったらどうですか、と思います。

編集後記

「一筋縄ではない人生」そう一言では言い表せない人生を歩まれてきた斉藤先生もとい斉藤さんと話していると、ご本人自身も「探究心」や「興味」を持っておられ、この2つの大きさが人生に関係しているのだなと感じた。 今回は、経歴、教育、ノーマネーについて、今後への興味のあることなどお聞きしていったが、どれも従来型の古い考え方を今後持続可能な社会に変えていくための新しい革命の一歩であると確信できる。(野村 夏希)