中澤陽

長い時間をかけて「社会に何かを残す」

【群馬県立前橋高校3年生・起業家】

高校生にして起業2年目。きっかけは「本を読んでかっこいいなと思って、そうなろうと思った」こと。「長い時間をかけることで社会に何かを残したい」と本質を追及する視点を持ち、自ら立ち上げた会社も、10年後を見据えて基盤づくりを行っているという。限界をつくらず世界を広げ、かつ深めていく中澤さんがどのように考え、行動しているのか。日々更新される中澤さんの世界の魅力を探った。(2020.8)

常に挑戦

挑戦と言えばー、あと3日で夏休みが終わるんです。でも、まだ課題に手をつけていないんですよね。学校の友達とどこまで課題をやらずに我慢できるか、チキンレースをやっています。ラーメンがかかってるので負けられません!

そんな私が起業したのは、高校1年生の時。きっかけは、中学2年生の時に、家にたまたまあった本を読んだことでした。自分の会社をつくって、つらい思いをして、最終的には社会に何かを残す、というモデルを見てかっこいいなとー。本当は中学2年のうちに起業したかったのですが、父から「高校はちゃんと受かってくれ」と言われたので、高校受験に受かって「ご自由にしてどうぞ」という状態になってから起業しました。高校は自由を売りにしているところを受けたので、もちろん学校からは、起業しても何も言われなかったです。先生からの反応も「ふーん」という感じで。

かなり自由な高校ですが、髪型にはうるさいです。もう、2回くらい生徒指導にあいました。違反をしたいというのではなく、その髪型にしたいから。でも、校則のセーフとアウトの境目を自分がつくるという面白さを感じていて、「ここはどうなんだ」という挑戦はしています(笑)

「嫌だな」の感覚がアイデアの源泉

起業する前の高校1年生の時と2年生の時に、「群馬イノベーションアワード」に出場しました。このときはただ、学校の掲示板にあったのをパッと見て、「やろうかなぁ」と思ったのでエントリーしました。モノクロの紙だらけ中で、そのパンフレットが唯一カラーで目を惹いたんです。2年目に出場したときに、全参加者の中から最も優秀な人に贈られる、「大賞」を受賞しました。

普段アイデアを考える時は、「嫌だな」と感じるところから広げるようにしています。感度は普通だと思っていますが、同じ学校の人や家族とは「嫌だな」と感じるポイントが違っているみたいです。アイデアを思い付いて、ある程度まとまったら、近くにいる人に話すのですが、その時の相手の「そこが嫌なんだ!」という反応で、これは不思議な感じ方なんだな、と分かることがよくあります。

でも最近は、「この人は困っていそうだな」と考えて、同じような「嫌」な感情を持っている、あるいは持っていそうな人に話を聞いて考えを膨らませようとしています。

中学2年時の中澤さん

群馬イノベーションアワード2019

写真中央が中澤さん

10年後を見据えた会社経営

ビジネスを通して問題に向き合っていますが、問題の解決手段にビジネスを選んでいるのは、それが自分の身近にあるものだったからです。なじみがある分、自分らしくやりやすいと感じています。

というのも、ビジネスの本を読んでいただけでなく、中学生の頃から何人か本の著者にも会っているんです。ある企業の社長が学校に講演に来てくださった時に、立ち居振る舞いに「深さ」を感じて、追いかけて「話をしたい」とお願いしたこともあります。話を聞きながら、まだ奥が深いところを持っているけどそれを出さないー、悪く言えば子供扱いされていることにちょっとイライラもしました。でもそれくらい「深さ」を感じる魅力的な方です。

会社は、今の数字で見たら多分よろしくはないですが、構想の中では「まあまあまあ」といったところです。計画としては10年くらい地盤を固める整備をして、最後の最後に全部ピースがハマってドッカーンといくイメージですね。

今、社会人を3人雇っています。群馬イノベーションアワードのプレゼンを聞いて声をかけてくださった方です。年齢は知らないですが、30歳~40歳位でしょうか。ぶつかり合うことが多くて、喧嘩するんじゃないかというくらいに言い合うのですが、最終的には「これで行こう」とまとまれるところが3人の特徴かな、という風に思っています。

今後、進学するかは迷ったのですが、やはり大学に行って専門的なことを得たいと思っています。もちろん、会社を持っていますから、大学に行きながら運営するでしょうし、卒業した後も運営すると思います。専門的なことを得られるところというのが大学の大きな役割だと思いますし、高い本が置いてあるのも魅力です。なにか特定の専門を志望しているのではないですが、「深いところ」を学びたいですね。一応文系を選択してしまっていますが、理系に行きたかったら理系の勉強をしようと思っています。

経営している会社にて

圧倒的な敗北感が原動力

今ライバルがインドにいます。会ったこともなければ名前も覚えていませんが(笑)。ネットでたまたま記事を見つけて、「こいつすごいな」と思ったのでライバル視しています。他にはノーム・チョムスキー (哲学、言語学などの学者) もですね。圧倒的な敗北感を感じさせる人を見つけて「勝てないな」と思った瞬間に、追い抜かそうという気持ちが湧いてきます。一番上に立ちたいという思いは多分なくて、どこまで突き詰めても新しい標的を見つけ、負けた気がして乗り越えるというのを繰り返したいと思っています。

DeruQuiのゼミでも「追いかける」は意識しています。追いかける対象がメンターで、追い抜こうとするのがゼミ生かなと。ゼミ生の多くは大学生なので、ゼミ生もメンターとして見ている部分もあって、ゼミ生1人対メンター全員と捉えていたりもします。

見えないものに、本当に大切なものがある

DeruQuiへの参加の話を聞いたときは、何かを得ようというより「自分が持っているモノをぶっつけよう」と思いました。実際参加して、普段なら会えない人、知らないことを知れる場所があり、それを一緒に共有している人がいるという、不思議な環境が魅力に感じました。その中で毎回緊張しながら、メンターに自分をぶっつけようとしています。

毎回、始まる3分前、Zoomの「参加する」ボタンを押す前に、色々考えてしまう時間は自分にとって印象深い時間です。「今回はこれを言おう」「こんな風に話を広げられるかな」と考え、結局、「どのように考えても変わらないから楽に行こう」、そう思って、ボタンを押すまで、短い間に色々な変化が起きるんです。

ゼミで印象に残ったテーマは「チームと自分の役割」ですね。今まであまり考えたことがなかったので、意表を突かれた気がしました。他の物事に対しても、個々の役割によって全体が成り立って上手くいっているのだな、と思うことが増えました。例えば、ダイヤモンドといった宝石類は、切られている面がすべて違います。一つひとつの面が個性と考えると、色々な形の個性が集まっていて、それが最終的に一番綺麗に見えるのだな、というように。

DeruQuiは、すぐに結果を得ようとするのではなく、長い目で見て学ぶための、きっかけ・通り道を示している傾向が強いと感じます。長い時間をかけて、実力や感性を上げるための場で、「結果は後からついてくる」といえるくらい、本質的な学びがあると思います。私は「今、目の前にないもの」の中に、本当に大切なものがある気がしているので、「今、目の前にないものを見つける」ということを自分のミッションにしようと思っています。普段から、モノの見方を変えようとするところがあるのですが、それもこのミッションに基づいてやっていることの一つです。最近は、自分のところから見る景色と、虫とか動物とかから見る景色とを分けて考えています。よく散歩をするのですが、その時もしゃがんでみたりということを頻繁にしていますね。何度か不思議がられたこともありますが(笑)。

何かをするのに「長い時間をかける」ことは、社会に何かを残すことの意味かなと思っています。

編集後記

自分自身の過去の思いや、聞き手の解釈に対して、「そうかもしれません」などと、曖昧さを残す表現でありながら、はっきりとした口調で答えを届けてくれる姿勢は、決めつけることを避け、様々な可能性を認める思慮深さを感じさせて、印象的でした。本人は、おしゃれな言葉を使えなかったのが反省と言いますが、伝わりやすく、それでいてユニークで、時にインパクトを与える言葉づかいは、聞き手を楽しませてくれます。こちらの思いもかけない答えも多く飛び出し、最後に言いそびれたことは、「好きな食べ物は中華料理です」。時間をかけて本質を追及しようとする考え方は、簡単に探れる世界ではなく、今回感じた中澤さんの魅力も、まだまだ全体の数%なのだろうと、まさに「奥深さ」を感じさせられるインタビューになりました。今後も挑戦を繰り返しながら、さらにその魅力を更新されていくのだろうと感じています。 (岩崎咲耶)