山﨑 裕貴

地域・伝統とのつながり

富山県立大学情報システム工学専攻1人との繋がりを中心に活動してきた山﨑さんは、縁のあった様々なことに挑戦してきた。今年4月に再会した高岡漆器の職人さんとの出会いに使命感を感じ、現在、今までにない長期的な取り組みに邁進している。抱いているビジョンは「地域(高岡)の伝統を世界に」。縁と信頼をつなぐため、今日も駆け回っている。(2020.10)

きっかけは縁。高岡漆器と僕

富山県高岡市出身の僕は、高岡を伝統工芸の街として世界に広める活動を今年4月に立ち上げました。地域の伝統を世界に伝える「DEN-DEN」として3人チームで活動していて、最近は、需要販路拡大のための活動がビジコンで審査員賞を受賞しました。https://hd.ngas.co.jp/approach/kizuna_contest/

活動のきっかけはある職人さんと10年越しに再会したことです。小学生時代に「ものづくりデザイン科」の1~2期生として出会い、高岡漆器を教わりました。そこで作った時計を祖母にあげた時、とても喜んでくれたことを覚えています。それから10年―。公益社団法人日本⻘年会議所北陸地区協議会のソーシャルビジネスプランコンテストで、地域活動と昔教わった高岡漆器を組み合わせたいと思って連絡すると、たまたま10年前の職人さんにつながったんです。この出会いに縁を感じ、「高岡漆器の売り上げが落ちている」問題を解決することが自分のミッションだと確信しました。関係者の皆さんも、僕が「ものづくりデザイン科」の1~2期生であることに喜んでくれて、熱心に協力してくださり、仲良くなっています。

その後新たなビジネスプランコンテスト,日本海ガス主催の北陸ビジネスプランコンテストに参加しました.そのコンテストは掲示板のポスターをたまたま見つけたのがきっかけです。〆切当日だったので一日缶詰状態になって提出しようと思っていたところ、〆切が延長されて、「これはもうちゃんとやるしかない」と思って出場しました。出場条件は「チームメンバーが3名以上」。たまたまその一週間前に仲間が3名に増えたというタイミングの良さにも運命を感じていました。

受賞理由は、頭よりも足を動かして、たくさんの関係者を巻き込んだことだと思います。高校に大学に、木地職人や螺鈿職人など20人以上の職人さん、料亭や行政など。僕たち3人だけが頑張っても上手くいかないと感じていて、協力や信頼を得るために駆け回っていました。多くの方に協力いただけたからこその受賞だと思っています。

第1回北陸ビジネスプランコンテスト にて審査員特別賞受賞

ベクトルの違う仲間

立ち上げまでは僕が一人で行いましたが、友人に話をしながら仲間を増やしていきました。職人さんとの出会いの話をして、職人さんと仲良くしているところを見てもらいながら参加してもらいました。実際に会うと、「こんなに頑張っている職人さんが報われないのは嫌だ」と共感してもらえます。ただ、参加にあたって、この活動は1~2年で終わるものではないから覚悟してほしい、とは伝えています。

メンバーの性格がそれぞれ違って、面倒でイライラすることもありますが、それが面白いと感じています。僕はまっすぐ突き進むタイプ、もう一人は堅実で真面目なタイプ。言葉の表現が巧みで発想が面白いことや、何にでも興味を示すのは僕にはない強みです。後もう一人は興味を持ったモノについては突き詰めるタイプで、たまに「なんでこのタイミング?」というところで長考するのですが、聞くと理にかなっている。自分にないものを持っている人を誘って仲間になってもらいました。

DEN-DENの仲間と

活動の本質の振り返り

DeruQuiのゼミで扱った内容は、活動の振り返りに利用しています。ビジコンまでは行動をメインに活動して加速できていた反面、考えるのを疎かにしていたので、今は考えるタイミングと位置づけています。目の前のことに捉われず、どんなことにつながるかを妄想して本質を考える面白さに気付きました。具体的には、ビジョンの対象が高岡である必要はあるのか、なぜこの活動を始めたのか、根幹に立ち帰って考えることが出来ました。

最近扱った「戦略と戦術」のテーマも、内容をメンバー皆で共有し、チームのビジョン、戦略、戦術を3日かけて考えました。それ以降、活動内容を話すときに「それって戦略と戦術どっちの話?」と共通認識している概念があることで、整理しながら進めやすくなりました。

DeruQuiは、活動の指針になることが学べる場です。また、ゼミ生はみんな行動力の塊で、行動を起こすことが好きな人は、たくさんの同族を見つけられると思います。ゼミで出会った学生とは、個別にコンタクトして積極的に話をする場をつくって、様々な観点から考えるヒントをもらっています。

縁がつながる地域活動

高岡漆器に出会ったのは最近ですが、それ以前からずっと地域活動を行っていました。きっかけは高校の職場体験で出会った大学の先生です。それ以来僕を気にかけてくれて、学校に来てくれたり、高大連携プログラムでご一緒したりしました。特別なことをした覚えはありませんが、僕がぶっ飛んでいたからだそうです。大学を受験した際には、担当の面接官がその先生。合格後まだ高校生のうちから、大学の地域活動団体を紹介されました。もう、断れないですよね(笑)

その団体は「COC事業(※)を行う学生主催のOS(オペレーティングシステム)」という意味で「地域協同研究会COCOS(※)」という名前がついています。地域イベントを企画する団体で、イベントをするたびに縁が繋がっていきました。ある方に映画の助手への募集を教えてもらって参加し、今度はそこで一緒だった方の目に止まって、富山のCM制作につながるようになったり。また、自分一人ではできないことは知り合いに連絡して協力を仰ぐなど、積極的に人を巻き込んで行動しています。COCOSのご縁で知った「劇団SCOT」への住み込みバイトも、人付き合いを増やしたいと思って参加。COCOSにも活きる人脈をつくることが出来ました。

※COC事業:地(知)の拠点大学による地方創生推進事業。文科省が主催。

※地域協同研究会COCOS:https://www.facebook.com/tpu.cocos

COCOSの仲間と

思い立ったらまっすぐ前進

企画という仕事の面白さを知ったのは、大学1年生の時。まだ上の言うことを聞くばかりだった頃に、自分で何かやろうと大学のトイレの調査をしてサイトを作った(※)ら反響が良かったんです。トイレ、といっても最初は学生の男女比があらわれている場所を調べるためにトイレの数を調べようとしていたところに、先輩から「いいトイレを教えてくれ」と言われたからなんですが。

コロナの影響で活動が自粛モードになった時も、「コロナだからやらない」と考えるのが嫌で、友人が「自分の趣味を話せる場が欲しい」と言っているのを聞いてすぐにサークル紹介動画をつくるサークルを結成。友人と協力して、一週間で約20サークルの紹介動画(※)を作り上げました。新入生には好評でしたね。

アイデアを形にすることが面白いですが、一人ではやりたくないです。だから、今挙げた活動は、一緒にやった人の協力あってこそなんです。

※トイレのWEBサイト「ToiletWeb」

※オンラインサークル紹介

※その他、挙げきれないほどの活動実績をWEBにまとめている

封鎖のニュースを聞いてエアーズロックへ

富山の伝統を伝えるために

僕たちの現在やりたいことは「高岡の伝統を世界に伝える」ですが、根源は情報だと思っています。どこにお客さんのニーズがあるのか、という情報を職人さんに教えること、つまり、「高岡漆器と○○をかけ合わせた価値創出」の「○○」の部分を増やすことが戦術です。最近では、「肉球」から高岡漆器に繋がっているそうです。ここでも、DeruQuiのいろんなゼミ生から話を聞いてヒントを得ています。

今はモノ視点ではなく、行動視点で考える必要が出てきています。だから高岡漆器の値段を下げれば売れる、は間違っています。値段を下げようとする職人さん本人が、高岡漆器の価値を下げてしまっている、という一面もあります。僕たちは、価値を本当に分かってくれる人に届けたいし、価値を高めるためのストーリー作りをしたいと思っています。だから、一般層よりも特別層に売りたいし、高級料亭などの特殊なところに入り込んで行きたいと思っています。最近は、富山のハンドボールチーム、「アランマーレ」と組んで高岡漆器の救急箱を展開しようとしています。富山は薬の町、という地元ネタと絡み、けがの多いハンドボールと上手く組み合わせたいと思いました。

高岡漆器を売るのではなく、高岡漆器の情報を売る―。情報と価値を売って、そこに高岡漆器がついてきたらいいな、と、まずは高岡漆器について、こんな風に考えています。

高岡漆器

編集後記

高岡漆器の人・山﨑さんは、高岡漆器以外でも、様々なことに人を巻き込みながらやり遂げている、たくさんの実績の持ち主であることに驚嘆しました。縁が繋がっていくご自身の境遇を、本人は「運がいい」と言いますが、「運を引き寄せている」というのが正しいように思います。物事にまっすぐ取り組みながら、たくさんの人を味方にして積極的に巻き込んでいく姿勢、10年ぶりの再会という「縁」に気付いて真摯に向き合う姿勢は、今後もずっと大きな力になるのだろうと思いました。(岩崎咲耶)