高堂 昂

「やりたいこと」に合わせるキャリア

【富山高校3年】東大を目指す中で「なぜ東大に?」という根本的な問いに出会い、それがきっかけで自分が受けている教育への違和感が露わになったという。進路を白紙にして考え直すため、積極的に課外活動に参加しながら様々な人との出会いを求めている。違和感に向き合い、「教育を変える」ための熱意と未来を見据えた冷静さを持ち合わせた波乱万丈な思いを追った。 (2020.12)

進路を考える楽しさ

僕は元々憧れのあった警察官になりたいと思っていました。学校の成績も良かったので、警視庁のエリートになろうと思い、その第一歩として、学校の期待通り東大を目指して勉学に励んでいたんです。

しかし高2の夏、学校のプログラムでOBの東大生と出会ってから、進路への考え方が覆されます。行動も喋り方もかっこいい先輩のイギリス留学の話を聞いて海外に行く選択肢が開け、進路を考え直したことがきっかけです。このとき、「僕はなぜ警察官になりたいんだ?」という問いに答えられないことに気付きました。それなら警察官にならなくてもよいと考え、必然的に東大を目指す理由もなくなりました。

これを機に、排除していた私立大学を調べるようになりました。私立には学部がたくさんある上、専門性やユニークさで様々な特徴があり、進路の選択肢が一気に広がりました。ある時ふと、留学ではなく海外の大学にそのまま入学してみたら面白いと思いつき、海外の大学も調べるようになりました。進路を調べることに夢中になり、定期テストで信じられない点数を取ってしまうほど。でも、私立に行くならば受験科目数も3つだけなので、何とかなるだろうと思っていました。

次の進路希望書で志望大学を「海外の大学」と書いて提出したときは、先生に「このふざけた回答は何だ?」と言われてしまいました。学校は、成績のよい人が東大を志望しないと文句を言うんです。生徒会長の立候補演説で東大宣言していたこともあり、思いとどまるよう説得されましたが、「東大だけ」という選択に戻ることは出来ませんでした。海外の大学への入学は、学費の関係で諦めることになりますが、東大も含めた様々な進路の可能性を考えて更新し続けています。

選択肢を制限する勉強と広げる学び

海外に目を向けるようになってから、Facebookグループなどを通じて見つけた課外活動に参加するようになりました。参加していたのは、教育を考えているコミュニティの活動やイベントです。東大を目指すことを辞めてから、東大入学者数を増やしたい学校とは反りが合わなくなり、教育への違和感が気になるようになっていました。なぜ、将来の選択肢を制限して部活と勉強ばかりに邁進させるのだろう、と。海外の大学に行きたかったのも、日本とは異なる教育システムの中に入り込みたいという思いからで、常に「教育」が考えや活動の中心にありました。

参加者が大学生や大人ばかりな課外活動も多々ありましたが、世代の異なる人とお話することは学びが大きかったです。しかし、参加していたようなイベントは地元富山にはありませんでした。面白そうなイベントが東京で開催される時は夜行バスで移動していましたが、そういったイベントを地元で開催したいと思い、運営側としても携わるようになりました。

イベントに参加して、大学生や社長のお話を聞く機会が多くあったのですが、そこで感じたことは、意志を持って活動することの大切さです。皆さんが、自分の進路をしっかり考え、夢を持って挑戦をしている姿はかっこいいと思いました。

学校に通っているだけだと、社会に出ている様々な人のお話を聞く機会はほとんどありません。学校は勉強に時間を吸われてしまっていますが、多様な話を聞くことは、学業と同じくらい大事だと感じています。

面白い大人に会うなら、DeruQui

DeruQuiには、課外活動で出会ったゼミ生の山田雅さんの紹介で参加しました。大学生以上のコミュニティに高校生も参加できるということで、参加を決断しました。実際に、DeruQuiゼミに参加しているメンター(先輩社会人)は一癖も二癖もあるので、話していて面白いです。

どのゼミでも違う意見が自然と生まれるのが魅力のひとつであり、これは学校にも反映されてほしいなと思います。学校で話す時は、良い意見が出て「それが正解」という雰囲気になると、自分の意見を言うのが怖くなりますし、遠慮も生まれてしまいます。ゼミでハンコの要否を議論した回は、以前父と同じ議論をしたときにも出てこなかった「必要派」の納得できる意見を聞けたことが新鮮で、特に印象に残っています。

高校生が挑戦出来る社会へ

これからの高校生には、勉強を中心にした高校生活を送ってほしくないと思っています。自分が高校生なので、今は「高校生のために」考えてしまっていますが、一人ひとりが自分のやりたいことを見つけて、それに挑戦できる社会を目指したいと思っています。学校の嫌なところは色々あって、高校教師をしている父に「学校のここが嫌い!」ということを話してよく議論をしています。

教育を変えるのに、当初は学校現場に直接入れる教師を目指していました。しかしYouTuberや本の執筆などの方法も有効で、教師になる必要はないのでは、という意見を聞き、考え直しました。今は、やりたいことのために起業をした人との出会いも影響し、「なんでも出来る人になりたい」と思って起業を目指しています。これまで、「教育を変えたい」という思いはありながら、やりたいことは色々変わってきていたので、決まった職業に就くのではなく、起業してしまえばやりたいことに合わせてなんでも出来るだろうと考えたからです。

失敗しても、「今」大事なことを

起業も目指していますが、両親とも相談し高校卒業後、一旦は大学に進学します。高校を卒業してすぐの起業には反対され、焦ることもないと思ってこの進路を決めました。親の反対がなければ勢いのまま起業していたところでしたが、一度冷静になる機会があったことは良かったと思っています。親を説得する機会のおかげで、「起業すること」を中心に話をして、起業以前の「自分のやりたいこと」を考えられていない自分に気付くことが出来ました。

受験生なので勉強にいそしむべき時期かもしれませんが、最近はDeruQuiメンターもやっておられる金谷智さんの複業先生のプロジェクトを紹介していただき、今はその活動に力を入れています。金谷社長と、紹介してくださった原井紗友里さんという起業家は、僕に影響を与えてくださった2トップで、そんな方と関わらせていただけるチャンスは、たとえ受験に失敗したとしても、絶対に逃したくないと思っています。原井さんは、ご自身が意識した課題に取り組んでいる生き様がかっこいいですし、金谷さんは、教育分野でスタートアップをやられていることが大先輩として凄いなと感じ、お二人に出会えて本当に良かったと思っているんです。

「失敗してもいい」と思っているのは、上手く行かなくても自分を許容出来るからです。僕は、成績がいくら低下しても「まずい」と感じたことはありません。起業の道もハードルを感じますが、辛い思いをしている起業家の話しも聞いているので、「どうせ失敗して死にそうな思いをするだろう」と思っています。やりたいことをやって、それでうまく行かなくて死ぬなら、それはそれでしょうがない、そんな気持ちで物事に取り組んでいます。

最近参加しているイベント

自分を貫く大学生活に

大学では、教育系か、海外に興味があるので国際系の学部に進みたいと考えています。絶対やりたいことのひとつが、フィンランドへの留学です。フィンランドは教育方法が独特な上に起業も盛んということで、自分のやりたいことが集約されている国としてとても興味を持っています。実は、インターンのイベントで一度行くチャンスがあったのですが、体調を崩してかなわなかったという過去があります。ある程度のお金も払い、とても楽しみにしていたので、人生に投げやりな気持ちになるどん底を味わいました。「人生はそう上手くいかない」と割り切るきっかけになったので良かったのですが、リベンジを果たしたいです。

大学では、自分の好きなことにお金を使えるようになることが楽しみのひとつです。色々な人に会いに行くなど、周りの学生とは孤立してでもやりたいことを貫いて、挑戦を繰り返したいと思っています。

編集後記

「自分が正しいかどうかは別として、違うと思ったことは大事にしたい」。こう力強く話す高堂さんは、この言葉通り、試行錯誤を繰り返しながら自分の将来と教育に向き合い続けてきていました。違うと思ったら、自分の進んできた道を変えることも厭わない、そんなまっすぐな思いが印象的でした。大学生になって、活躍の範囲がまた一回りも二回りも大きくなるのではという本人が抱く期待が伝わり、私までわくわくさせられています。(岩崎咲耶)